星の末裔
涼しい。今日は涼しい。
お気に入りの赤いパーカーを羽織ってちょうどいい気温だ。
雲の間から少し、星が見える。
どうも、こんばんは。須藤飛鳥です。
たまには外に出て、歩いてみるのもいいですよ。僕はバイトの都合上しょっちゅう歩いてますけど、それでもやっぱり歩くの楽しい。
歩いてないと、ゆっくりじゃないと見えないものもいっぱいありますよ。
彼等も言ってましたよ。この街の摩天楼に切り取られた空じゃ窮屈だけど、確かにそこにあると。
土木座が。
guizillen 4llen 土木座。
僕にとって二回目のギジレン。あの話大好きなんですよ。今でもたまに見ちゃうくらい。
三姉妹がそれぞれ別の道を行き、それぞれみんな土木座という奇妙な妖精?に出会って成長していくお話し。
僕は星の土木座だった。
大きな大きな穴を掘り、そこにダイナマイトを敷き詰めて、打ち明け花火の要領で空へ帰っていくのだ。
ひょんな事から巻き込まれてしまったマーサという少女と共に、来る日も来る日も穴を掘る。お腹が空いたらケバブ屋を襲い、また掘る。
端から見たらただの奇行集団である。実際に疎まれていたし。
でもいいのだ。というより、関係なかった。
彼等はただ、俺達はただ、星へ、土木座へと帰りたかった。それだけなのだ。それだけでよかったのだ。
マーサは小言がうるさかった。盗みはするなだの、きゅうりをよこせだの、口を開けば不満ばかり。
あまりにもうるさいから、一度街の広場に出て、マーサのいうように芸をしてお金?を稼ごうとした。
結果は散々である。
ムカつくから、マーサにも芸をやらせたらあいつは歌をうたいやがった。
ひねくれていて、つたなくて、立派なもんでは決してなかったが、なんだかとても、いい歌だった。
久しぶりにあったマーサは羽振りが良くなっていた。
俺たちに食い物をくれた。なんだ良いやつじゃねえか。
だから俺たちも、俺たちの目的を話したやった。
穴を掘る理由、土木座に俺たちは帰りたいのだと。
マーサになら、なんだか話してやってもいい気がしたのだ。
最初は、騙して利用してやるつもりだったのに俺たちも丸くなったものだ。こういうのも悪くない。
そして、マーサに呼び出される。
あいつの元へ行ってみると、穴の回り一面が更地になっていた。あいつがこの辺りを買い取ったらしい。
空が、広かった。何もない、星だけの空。帰り道に困る事もない。
俺たちは遂に、帰れるのだ。
親方からじゃがりこという名の煙草をもらい祝杯をあげる。
ふと、気づくと、あいつは輪の外でなんだか寂しそうな顔をしていた。
そう思ったら、あいつにもじゃがりこをあげていた。
困った顔をしていたが、あいつは受け取った。
皆に別れをつげ、一人づつ穴に飛び込んでいく。
どうやら点火はあいつに任せるらしい。相変わらず文句を言っていたが、どうやら受け取ったみたいだ。
穴の中でその時を待つ。
外からぶつぶつと何かが聞こえる。
あいつは何をちんたらしているんだ。俺たちの念願が遂に叶うんだ。迷うことなんて何もない。
けれど、種火は落ちてこない。
このままでは、土木座には帰れない。
でも、それでも、不思議なことに、それでもいいと思う俺もいた。あいつが決めたことなら、それで。
それで、いいんだ。
瞬間。
上から明かりが降ってきた。
種火が、灯火が、降ってきたのだ。
それはなんだか、物凄くゆっくり落ちてくるように感じじた。
なんだよ、やればできるじゃねえか。
でもそうだよな。あいつはいつも、ぶつぶつ文句を言いながらも、最後まで手伝ってくれた。
一緒に、穴を掘ってくれたのだ。
うん、なんだかんだ楽しかった。
おまえと過ごした日々も、案外悪くなかったぜ。
達者でな。マーサ。
どーーーーーーーーーーんっ。
みたいな?
そんな感じだったよ。俺の土木座は。
あれから時は流れ、今は10llenの稽古をしている。
きっとまた、かけがえのない公演になるのだろう。
楽しみである。
思い出話をしていたら、空が少し白んできた。
星も少し見えづらくなってきた。
でも、確かに、あそこに土木座はあるのだ。
何処か遠出で、花火の上がる音が聞こえた気がする。
須藤飛鳥